第2部 第11章 人身の自由 二、被疑者の権利


一、基本原則

二、被疑者の権利

三、被告人の権利
 


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二、被疑者の権利

1 逮捕・抑留・拘禁からの自由



明治憲法下では治安維持法をはじめとして人々を弾圧する法律がたくさんありました。

しかし立憲主義国家はそうした不正を許しません。
国家権力が人々にとって最も恐ろしい形として現れるのは逮捕や刑罰を行なうときです。

そのため国家権力から人々を守ることを目的とする憲法は、とくに刑事手続について詳細な規定を定めました。

33~39条に刑事手続の規定が定められています。

憲法

第33条  何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

第34条  何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

第35条  何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2項  捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

第36条  公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。

第37条  すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2項  刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3項  刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

第38条  何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2項  強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3項  何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

第39条  何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

ケンくん
ケンくん

本当だ!33~38条にわたってすごく詳細に規定しているね。他の、例えば学問の自由だったら文言が「学問の自由はこれを保障する」で終わってるのにね。刑事手続規定はそれだけ細かく規定する必要があるんだね。



憲法33~35条で捜査における被疑者の権利として、不法な逮捕・抑留・拘禁からの自由と、住居の不可侵とを定めています。
それぞれ説明します。

ゴッツ先生の解説
ゴッツ先生の解説

被疑者とは犯罪の疑いを受け、捜査の対象とされているけれど、まだ公訴を提起されていない者をいいます。





不法な逮捕からの自由の保障として、33条は逮捕等の身体拘束には、原則として司法官憲(裁判官)の発する令状(逮捕状、勾引状、勾留状)が必要であると規定しています(令状主義)。

憲法

第33条  何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

不法な逮捕からの自由の保障として、原則として司法官憲(裁判官)の発する令状(逮捕状、勾引状、勾留状)が必要であるとしている(令状主義)。
原則の令状主義の例外として、現行犯逮捕がある。




令状主義は司法官憲(裁判官)のチェックを設けることで、恣意的な人身の自由の侵害を阻止するのが目的です。

もし同じ機関である行政が令状を発することができてしまったら、いくらでも都合の良いように令状を発してしまいがちです。
したがって司法権(裁判所)がチェックした令状を発するようにしています。

令状主義の目的:司法権(裁判所)のチェックを設けることで、恣意的な人身の自由の侵害を阻止する。
もし、同じ機関である行政が令状を発することができてしまったら、いくらでも都合の良いように令状を発してしまいがち。





続いて不法な抑留・拘禁についてです。憲法34条では抑留又は拘禁についての手続的な保障を規定しています。

憲法

第34条  何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。



身体を一時的に拘束することを抑留、継続的に拘束することを拘禁といいます。

理由を告げずに抑留・拘禁してはいけません、
弁護人に依頼する権利を与えなければ、抑留・拘禁してはいけません、ということを意味しています。

理由を告げずに抑留・拘禁してはならない。
弁護人に依頼する権利を与えなければ、抑留・拘禁してはならない。
2 住居の不可侵



住居の不可侵についてです。

憲法

第35条  何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2項  捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。


住居は人の私生活の中心です。
プライバシー保護の観点から令状主義が規定されました(一般令状の禁止)。

例外として33条の場合には無令状で住居への侵入を行なうことが許されます。
33条の場合とは現行犯逮捕と令状逮捕の2つの場合のことです(本章二1(一)参照)。

令状なしで住居への侵入をしてはならない。



ゴッツ先生の解説
ゴッツ先生の解説

一般令状とは、どこで何を捜索・押収するか特定していない令状です。一般令状だと、いつでもどこでも捜索・押収できるので、濫用される恐れがあります。したがって一般令状を禁止しています。


 


ケンくんノート

【まとめ】
第2部 基本的人権の尊重
第11章 人身の自由
二、被疑者の権利

1、・現行犯逮捕のとき以外は逮捕状、勾引状、勾留状、等が
  なければ被疑者を逮捕することができない。

  ・理由を告げずに抑留・拘禁してはならない。
  弁護人に依頼する権利を与えなければ、抑留・拘禁してはいけない。

2、住居の不可侵は原則として保障される(令状主義)。
例外として33条の場合には無令状で住居の侵入を行うことが許される。
一般令状(どこで何を捜索する・押収するかを特定していない令状)は禁止されている。


第2部 第11章 人身の自由 二、被疑者の権利 おしまい

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