第2部 第8章 精神的自由権1-内心の自由- 三、学問の自由

一、思想・良心の自由  

二、信教の自由  

三、学問の自由


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三、学問の自由

1 学問の自由の内容



憲法23条では学問の自由の保障を規定しています。

憲法

第23条  学問の自由は、これを保障する。


学問の自由とは、個人の真理の探究を国家が圧迫・干渉したときにこれを排除することができる権利です。

学問の自由を憲法の条文では諸外国ではあまり例を見ません。
ではなぜわざわざ規定しているのでしょうか。それは歴史的な背景からです。

明治憲法下では国家権力による学問の自由の侵害がたびたび引き起こされていたのです。

1933年、京都帝国大学の滝川教授の学説が、当時の時代にそぐわない自由主義的なものであったために、文部省は滝川教授を休職するよう命じました。
これに対し、同大学の教授らは辞職して抗議しました。しかし滝川教授の休職処分は取り消されませんでした(滝川事件)。

1935年には、貴族院議員だった美濃部達吉の、天皇を国家の機関として考える説(天皇機関説)が国体に反するものだとして、美濃部達吉は議員退職に追い込まれました(天皇機関説事件)。

ケンくん
ケンくん

うわー。怖いなぁー。学問の自由を憲法の条文で明文化している必要性がよーくわかったよー。




この学問の自由は個人の人権としての学問の自由だけでなく
とくに大学での学問の自由を趣旨としています。

「学問の自由」の内容には、学問研究の自由研究発表の自由教授の自由、の3つがあります。

学問の自由の中心は真理の発見・探究を目的とする学問研究の自由です。これは思想・良心の自由(第8章 精神的自由権1-内心の自由- 一、思想・良心の自由)の一部です。

また、研究しても発表できなかったら意味がありません。当然に研究発表の自由も含まれます。

学問研究の自由
研究発表の自由




教授の自由とは、教育をする自由のことです。

学校には、大学などの高等教育機関と小中学校・高校の下級教育機関があります。

高等教育機関の教員には完全な教授の自由が認められています。
下級教育機関の教員には、一定の制限つきで教授の自由が認められています。

このことに関連した判例が旭川学テ事件です。

旭川学力テスト事件(最判昭51・5・21)




従来は、下級教育機関の教員には教授の自由が認められていませんでした。

しかし、旭川学テ事件によって、下級教育機関(小中学校・高校)の教授の自由も一定の制限つきで認めるべきだ、と判示されました。

ケンくん
ケンくん

それでも下級教育機関の教員は、一定の制限がされちゃうんだね。何だかかわいそうだなぁー。





ケンくんは優しいですね。
しかし、下級教育機関の教員に完全に教授の自由を認めて、何でも自由に教えて良い、とすると困ったことが起きてしまいます。

例えば、小学校でかけ算九九を教えない、偏った漢字ばかり教えてしまう、等といったことです。

2 学問の自由の保障の意味


学問の自由の保障の意味には2つの意味があります。

1つ目は学問の自由が国家権力に弾圧・禁止されないこと、

2つ目は学問の自由の実質的裏づけとして教育研究機関の従事者に職務上の独立を認めてその身分を保障すること、
を意味しています。

1つ目:学問の自由が国家権力に弾圧・禁止されない。
×
2つ目:教育研究機関の従事者に、職務上の独立を認めて、その身分を保障する。
×

ケンくん
ケンくん

そうだねー。この2つが保障されていないと、こんな恐ろしいことが起きるんだよね~。想像しただけで怖いよ~!



しかし明治憲法下では治安維持の名のもとにこんな弾圧的行為もしばしば行われていました。

天皇機関説事件のように学問研究への政府の干渉は絶対に許されない行為です。

もっとも、近年の先端科学技術の研究がもたらす重大な脅威・危険を考えると、今までのように研究の自由を思想の自由と同質のものと捉えることが難しくなっています。

例えばクローン技術です。
クローン技術によって人間をつくりだす行為でさえも、研究の自由ということで無制限に保障されてはなりません。

人間の尊厳に関わる問題は研究者の自制に任せるだけでなく、必要最小限の規制をするべきではないか、との意見も有力になってきています。

3 大学の自治
人間の尊厳に関わる問題は、必要最小限の規制をするべきではないか、との意見も有力


「学問の自由」は英語で「Academic freedom」といいます。
このacademicには「学究的な、学問的な、学校の、大学の」という意味があります。

「学問の自由」とは「大学の自由」を意味します。

ケンくん
ケンくん

あ!その英語知ってる!大学のドメインは〇〇.ac.jpって表すもんね。





大学は学問研究の中心となるところです。
大学と学問は切っても切れない関係にあります。

そこで大学における学問の自由を保障するために、大学の内部のことについては、大学の判断に任すこととされてきました。

これを大学の自治といいます。この大学の自治は、制度的保障とされていて大学の自治を侵害する立法は許されません。

ゴッツ先生の解説
ゴッツ先生の解説

「制度的保障」とは憲法によって、一定の制度が保障されることを言います(

第5章 基本的人権の原理 三、人権の内容 参照)




大学の自治について争われた判例が東大ポポロ事件です。

東大ポポロ事件では、学内で警察官が観劇していたことが、大学の自治を侵すものではないか、と争われました。

東大ポポロ事件(最大判昭38・5・22)




東大ポポロ事件では、学生の集会が真に学問研究のものではなく、政治的活動に当たるものの場合、警察官が立ち入っても大学の自治や学問の自由を侵すものではない、としました。


ケンくんノート

【まとめ】
第2部 基本的人権の尊重
第8章 精神的自由権1-内心の自由-
三、学問の自由

1、 「学問の自由の内容」には、
学問研究の自由、研究発表の自由、教授の自由、の3つがある

2、「学問の自由の保障の意味」は
1つ目、学問の自由が国家権力に弾圧・禁止されないこと、
2つ目、学問の自由の実質的裏づけとして教育研究機関の従事者に
職務上の独立を認めてその身分を保障することを意味する。

3、 大学の自治を認め、①人事の自治、②施設・学生の管理の自治、を認めている。


第2部 第8章 精神的自由権1-内心の自由- 三、学問の自由 おしまい

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