二、特別な法律関係における人権の限界
次のページ・・・三、私人間における人権の保障と限界
1つ前のページ・・・一、人権と公共の福祉
二、特別な法律関係における人権の限界
1 特別権力関係の理論とその問題点 |
今まで公権力と一般国民との関係について説明しました。次は、公権力と特殊な関係にある者との関係について説明します。
えぇッ!?特殊な関係!?そんなのあるの?
あります。公務員や在監者などは、一般国民と違って公権力と特殊な関係にある、と考えられています。
これを特別権力関係論といいます。
特別権力関係論は明治憲法下の学説です。
この関係では法律の根拠がなくても人権が制限できます。司法審査も排除されます。
特別権力関係論では、法律の根拠がなくても人権が制限でき、司法審査も排除される。 |
どひゃ~!覚えること多いなぁ~!
でも安心してください。
現在ではこの特別権力関係論は批判が多くて、この理論が必要かどうかも問題になっているくらいです。
現在では特別権力関係でも人権規定が原則として適用されています。
特別権力関係においてもどんな人権が、どんな根拠で、どのくらい制限されるのか、を明らかにすることが大切だ、ということだけ覚えておいてください。
あーヨカッタ。
繰り返しになりますが、特別権力関係論はほとんど議論もされていない理論です。このページは読み飛ばしていただいても結構です。
2 公務員の人権 |
では特別権力関係における公務員の人権を説明します。
公務員の人権では
・公務員の政治活動の制限
・公務員の労働基本権の制限
がされています。
ちょっと待って!その前になんで公務員は人権が制限されてるの?かわいそうだよ。
ケンくんは優しいですね。
しかし一般の人と同様に公務員の人権を認めていたら、大変なことになってしまいます。
例えば公務員である消防士も一般の働者と同じようにすべての労働基本権を認めていたらどうなることでしょう。
消防士にも労働基本権を認めているということは、ストライキをする権利も認めてることになります。
消防士は労働待遇に不満があると、ストライキを起こします。
こんなときに火事でも起きたら、通報してもストライキ中のため、消防士が消火しに来てくれない、という事態が起こってしまいます。
もし、消防士にも一般の労働者と同じようにストライキをする権利を認めていたら、火事の通報をしても消火しにきてくれない、という事態が起こってしまう。 |
少し説明が前後しますが、労働基本権とは、団結権・団体交渉権・団体行動権の3つのことです。
使用者より立場の弱い労働者を保護するための権利です。
これは社会権の一種です(社会権については、第5章 基本的人権の原理 一、人権宣言の歴史 参照)。詳細は 第13章 その他の人権 一、参政権 二、受益権 で説明します。
労働基本権 | ①団結権:労働者が、団体を組織する権利。 | ||||
②団体交渉権:労働者の団体が、使用者と交渉する権利。 | |||||
③団体行動権(争議権):労働者の団体が、労働条件実現のため団体行動する権利 (ストライキする権利)。 | |||||
なるほど。予習 予習っと♪
初期の判例では公務員は「全体の奉仕者」だから、という抽象的な考えから、公務員の人権は制限されていました。
特別権力関係論に基づく考え方でした。
しかし人権制限の根拠としては不十分、という批判がありました。
全逓東京中郵事件で最高裁は公務員も労働基本権の保障を受け、その制限も必要最小限に限られる、としました。
全逓東京中郵事件(最判昭41・10・26) |
公務員の従来の抽象的な人権制限の根拠づけが放棄されたんだね。
その通りです。この全逓東京中郵事件では公務員の労働基本権(憲法28条)を厚く保護しています。
しかし、この後の全農林警職法事件では、公務員の争議行為を一律に全面禁止としました。
全農林警職法事件(最大判昭48・4・25) |
全農林警職法事件で示された公務員の争議行為を一律に全面禁止とする考え方が、現在の考えの主流となっています。
うーん。公務員の人たちがかわいそうだけど、こんなことも困るもんね。仕方ないね。
3 在監者の人権 |
在監者の人権も一定の制限がされています。在監者とは、簡単に言うと刑務所に入っている人のことです。
ふーん。その在監者も人権が制限されてるの?かわいそうだよ。
ケンくんは本当に優しいですね。
しかし、一般の人と同様に在監者のすべての人権を認めていたら、大変なことになってしまいます。
例えば喫煙の自由があります。20歳をすぎれば誰でもタバコが吸えます。
しかし、在監者にもこの喫煙の自由を認めた場合、タバコの火を用いて証拠隠滅や逃亡など不測の事態が生じるおそれがあります。
もしも在監者にすべての人権を認めていたら、不測の事態が生じるおそれがある。 |
つまり在監者の逃亡・罪証隠滅・暴行・殺傷等を防ぐためには、必要最小限度の制限が必要なのです。
在監者の人権制限について争われた判例として、よど号ハイジャック記事抹消事件があります。
よど号ハイジャック記事抹消事件(最大判昭58・6・22) |
この判例では、在監者の閲覧する新聞記事を相当の具体的蓋然性があれば抹消してもよい、という基準を示しました。
具体的蓋然性?
具体的蓋然性とは十中八九、間違いなくそうなるだろうと予測されることをいいます。
つまりこの事件では、監獄長は在監者に新聞記事を見せたら十中八九、何らかの騒動が起きただろう、と予測しました。
よって、記事を黒塗りしたことは問題ない、としたのです。
第2部 第6章 基本的人権の限界 二、特別な法律関係における人権の限界 おしまい
次のページ・・・三、私人間における人権の保障と限界
1つ前のページ・・・一、人権と公共の福祉