第1部 第3章 国民主権の原理 一、日本国憲法の基本原理

一、日本国憲法の基本原理  

二、国民主権

三、天皇制


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一、日本国憲法の基本原理


さてさて、このようにして誕生した日本国憲法ですが、前文にはその原理が明確に宣言されています。

国民主権、平和主義、基本的人権の尊重三大基本原理です。

ここでは三大基本原理の1つ、国民主権、について説明していきます。

ゴッツ先生の解説
ゴッツ先生の解説

三大基本原理は重要ポイントです。是非とも覚えてください。

1 前文の内容



前文とは法律の最初に書かれるものです。その法律の目的を述べています。これが日本国憲法の前文です。

憲法 前文

 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

ケンくん
ケンくん

うわぁ~!なんだこりゃ~!長すぎるよ~!何て書いてあるの!?



日本国憲法前文は4項(1項前段1項後段、2項、3項、4項)に分けて成り立っています。

日本国憲法前文1項前段では、このように述べています。

憲法 前文1項前段

 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。


     で「日本国民は~この憲法を確定する」と民定憲法であることを述べています。

     で「自由のもたらす恵沢」の確保、と人権尊重主義、「戦争の惨禍」からの開放、と平和主義を述べています。

     で「主権が国民に存する」と国民主権を述べています。



日本国憲法前文1項後段では、このように述べています。

憲法 前文1項後段

そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。


     で統治の目的は「国民の福利」実現のためにあることを基本思想としている、つまり代表民主制国民主権を述べています。

     で「人類普遍の原理」であって「これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」と憲法改正の限界を定めています。



日本国憲法前文2項では、このように述べています。

憲法 前文2項

 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。


     で「日本国民は、恒久の平和を念願」すると平和主義への希求を述べ、「平和のうちに生存する権利を有する」という平和的生存権を有することを述べています。



日本国憲法前文3項では、このように述べています。

憲法 前文3項

 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。


     で「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」と国際協調主義を宣言し、それが普遍的な「政治道徳の法則」である、と述べています。



日本国憲法前文4項では、このように述べています。

憲法 前文4項

日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。


     で日本国憲法の「崇高な理想と目的を達成すること」を誓約しています。



前文の内容を表にまとめると、このようになります。

条項内容
1項前段民定憲法性
人権尊重主義
平和主義
国民主権
1項後段代表民主制と国民主権
憲法改正の限界
2項平和的生存権
3項国際協調主義
4項目的達成の誓約
 2 前文の法的性質


日本国憲法前文は憲法の一部であり、憲法本文と同じく法的性質を持つとされています。
つまり憲法前文も法である、ということです。

例として、前文1項後段をみてみましょう。

憲法 前文1項後段

そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。


   では憲法改正の限界を定めていました。

この規定で実際に憲法改正を拘束しているという効果がもたらされています。
このことから憲法前文には法規範性がある、といえます。

法規範性とは、法的に拘束力を持ち、違反する立法や処分等を、禁じる効力があることをいいます。

憲法前文の法規範性


では、裁判規範性はどうでしょう。

裁判規範性とは、法規範性を前提に立法や処分等が憲法に違反しているかどうかを裁判で判断する基準となる効力のことをいいます。

通説では、前文には裁判規範性はない、としています。

憲法前文に裁判規範性はない。


前文に裁判規範性がない、という通説について問題となるのが、前文2項の平和的生存権です。

日本国憲法前文2項をみてみましょう。

憲法 前文2項

 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。


   で平和的生存権を有することを述べていました。
学説ではこの平和的生存権を新しい人権の一つとして認めるべきだ、という見解も有力です。

しかし平和的生存権は内容、性質などが不明確です。
したがって、平和的生存権は裁判で争うことのできる具体的な権利だ、とするのは難しいのです。

この平和的生存権について争われた判例が長沼事件です。

長沼事件(最一小昭和57・9・9)
ゴッツ先生の判例解説
ゴッツ先生の判例解説

長沼事件では、国が北海道のある地区にミサイル基地を建設しようとしたところ、近隣住民に反対運動が起こりました。
住民らはミサイル基地を建設させまいと、訴えを起こし違憲にしようとします。

しかし、違憲とするにあたってミサイル基地建設を人権侵害とする根拠条文が、憲法に見当たりません。ミサイル基地建設は当然、表現の自由の侵害でもありませんし、職業選択の自由の侵害でもありません。

そこで住民らは憲法前文の国民は平和的生存権を有する、という文言に着目しました。住民らはミサイル基地建設はこの平和的生存権を侵害するものだ、と主張し訴えを提起したのです。



長沼事件では、一審では平和的生存権を訴えの利益の一つとして認めたものの、二審では否定されました。
最高裁でも平和的生存権の裁判規範性を認めませんでした

ケンくん
ケンくん

結局、判例では平和的生存権の裁判規範性は認められなかったんだね。住民の人たちがかわいそうだなぁー。


ケンくんノート

【まとめ】
第一部 総論
第3章 国民主権の原理
一、日本国憲法の基本原理

1、日本国憲法前文には国民主権、平和主義、基本的人権の尊重の三大基本原理
が明確に宣言されている。

2、前文の法的性質として、法規範性はあるが、裁判規範性はない、とするのが
通説である。


第1部 第3章 国民主権の原理 一、日本国憲法の基本原理  おしまい

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